CG試乗記


静かな主張
昨年のフランクフルトショーで刷新された7シリーズに遅れること半年、我々の目の前に現れた「M7」は、一見しただけではベースとなった7シリーズとの違いは見受けられない。
相変わらず高貴でセクシーなリヤエンドに心を奪われながら、官能的な曲線を描くルーフを経由しボンネットへと視線を移して初めて、その中央に誇らしげに膨らんだパワーバルジを目撃することになる。
その下にはMシリーズ専用に開発された、直列3気筒660cc42psユニットが押し込まれ、ベースからおよそ200kgのぜい肉をそぎ落とされて、わずか1740kg程となったボディーを駆るのを、今か今かと待ちわびているのである。
ここですぐにドアノブには手をかけずにもう少しエクステリアを見回すと、70%の超扁平率を誇る145cm幅を持つ極太のシューズを履かされ、大径14インチホイールの奥に潜むニッシン片押し1ポットブレーキキャリパーを奢られているのを確認し、改めてこの車がただの4ドアセダンではないことに気付かされることになる。
そして真正面に回ってベースモデルから20ミリ落とされたライドハイトによる、今まさに獲物にとびかからんばかりに低く身構えた猛獣と目が合ってしまっては、僕はもうこれ以上この車をゆっくりと眺めていることができるほど大人ではなかったと悟り、ポケットの中のMと刻印がされたキーを握りしめた。
気分を高める演出
驚くほど軽く薄いドアを開け、これまた専用に開発された快適さとホールド性を併せ持つシートに身を沈めると、ハヤっていた気持ちが幾分和らぐのを感じる。がすぐさま目の前のステアリングホイール中央に刻まれたMのロゴや、いたるところに張り巡らされたカーボンパーツを目にすると、今度はあからさまにMの主張を始めてドライバーの気持ちを高ぶらせるのである。
そしていよいよMの真骨頂である高回転高出力ユニットに火を入れるべく、キーを回すと短いクランキングであっけなく目を覚まし、電子制御に調教されるキャブレターシステムにより、すぐに回転数を落ち着ける。
そのアイドリングは3つのピストンが互いを鼓舞し合うかのように、ぴったり息の合ったリズムを大人しく刻み続け、ハイパワーエンジンにつきものの荒々しさを想像していると、良い意味で裏切られることとなる。試しにそこから軽くブリッピングをくれてやると、まるでフリクションという物がこの世に存在しないかのように軽々と吹け上がり、そこにMシリーズの伝統がしっかり息づくエグゾーストノートが伴えば、往年のMシリーズファンならずとも思わず笑みがこぼれる瞬間だ。
早速Mシリーズでは初採用となるCVTの、コラム式セレクターレバーをDまでスライドさせ、いつものワインディングロードに繰り出すことにする。
駆け抜ける喜び
このMシリーズにおいて常に感心させられるのは、シャシーの躾が完璧に行き届いていることだが、今回のM7でもその伝統はしっかりと守られているようである。
例えばドライバーが意図していたより少し速めの速度でコーナーに侵入してしまったとしても、前後のポテンザが路面をしっかりと捉え続け、何事もなかったような涼しい顔で車体をコーナー出口に向けるのである。旋回特性としては基本的には微弱なアンダーステアを貫き通すが、それがガチガチに締め上げられたものではなく、多少のロールを許しながらも極めて高い限界レベルを達成している。
加えて秀逸なCVTがどんな場面においても最適なレシオを保ち、スロットルオープンに即座に反応して胸のすく加速を味あわせてくれる。さらに多少路面が荒れていようがうねっていようが、コントロール性に優れたブレーキが車両の運動エネルギーを瞬く間に奪い去り、ドライバーは次のコーナーへのアプローチに集中すればよい。この走る・曲がる・止まるが高次元で兼ね備えられた猛獣を手に入れた一握りのドライバーは、充分な安全性を兼ね備えたままスポーツドライビングに陶酔出来るのである。
一方でNVHも現代の車としての最小限に抑えられ、この手の車だからと言って通常走行での忍耐を必要とするものではないことも付け加えておく。


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